はじめに
国税の滞納が発生した場合、徴収職員は滞納者の財産を把握し、差し押さえ等の滞納処分を行う必要があります。そのための強力な情報収集手段が国税徴収法第141条に定められている「徴収職員の滞納処分に関する調査に係る質問検査権(以下、「質問検査権」)」です。
本記事では、最新の国税徴収法に基づく質問検査権の対象者、電子データ(電磁的記録)への対応、提出物件の留置き、そして質問を拒否した場合の罰則(質問不答弁等の罪)について、判例を交えながら網羅的に解説します。
質問検査権とは(国税徴収法第141条)
(徴収職員の滞納処分に関する調査に係る質問検査権)第百四十一条 徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、次に掲げる者に質問し、その者の財産に関する帳簿書類(電磁的記録を含む。)その他の物件を検査し、又は当該物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができる。
一 滞納者、二 滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者、三 滞納者に対し債権若しくは債務があつた、若しくはあると認めるに足りる相当の理由がある者又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者、四 滞納者が株主又は出資者である法人
国税徴収法、e-Gov、https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000147
近年では、ペーパーレス化に伴い「電磁的記録によるものを含む」という点が明記されており、クラウド上のデータや電子帳簿も検査対象となります。
また、むやみやたらに誰にでも質問できるわけではありません。国税徴収法上、質問検査の対象となる相手方は上記の4つのパターンにあてはまる者に限定されています。
提出物件の留置き(国税徴収法第141条の2)
(提出物件の留置き)第百四十一条の二 徴収職員は、滞納処分に関する調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる。
国税徴収法、e-Gov、https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000147
徴収職員は、滞納処分に関する調査について必要があるときは、提示または提出された物件(帳簿書類等)を留め置く(一時的に預かって保管する)ことができます。これにより、隠滅を防ぎ、詳細な内容精査が可能になります。
罰則:質問不答弁等の罪(国税徴収法第187条)
第百八十八条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。一 第百四十一条(徴収職員の滞納処分に関する調査に係る質問検査権)の規定による徴収職員の質問に対して答弁をせず、又は偽りの陳述をしたとき。二 第百四十一条の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避したとき。三 第百四十一条の規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出したとき。
国税徴収法、e-Gov、https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000147
質問検査権は任意調査の形をとりますが、正当な理由なく拒否した場合には罰則が設けられており、実質的には強制力を持っています(間接強制)。 また、法人の従業員等が違反行為をした場合、実行行為者だけでなく法人等も罰せられる両罰規定が適用されるケースがある点にも留意が必要です。
関連判例・実務上の留意点 憲法38条(黙秘権)との関係
行政手続である質問検査権の行使は、刑事責任を追及するためのものではないため、憲法38条の「自己に不利益な供述を強要されない権利」には直接反しないと解されています(荒川民商事件等の最高裁判例の趣旨に準ずる)。ただし、あくまで「滞納処分のための財産調査」という目的に限定されます。

