『不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン』を解説-不動産クラウドファンディングの手引書③-

不動産クラウドファンディングの手引書として、第1回では国土交通省が2019年4月に公表した「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン」の「目的」から「商号」の章を、第2回では「電子情報処理組織の管理」を解説しました。

第1回の解説はこちら

第2回の解説はこちら

第3回では案件の組成や募集時の開示資料として非常に重要となる審査について逐条解説していきます。

「適切な審査」

適切な審査-審査結果の公表-

7.適切な審査(規則第54条第2号)

 法第24条及び法第25条にて不動産特定共同事業契約の成立前の書面(以下「契約成立前書面」という。)、不動産特定共同事業契約の成立時の書面(以下「契約成立時書面」という。)の 交付について定められているところだが、電子取引業務においては、不動産特定共同事業者が書 面の記載内容について対面で説明を行うものではないため、契約締結の申込みの窓口となる電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等が不動産特定共同事業契約に基づき不動産取引を行う不動産特定共同事業者等(不動産特定共同事業者等に不動産取引に係る業務を委託する特例事業者 を含み、以下「不動産特定共同事業者等」という。)の財務状況、事業計画の内容及び資金使途その他電子取引業務の対象とすることの適否の判断に資する事項の適切な審査(以下「審査」と いう。)を実施した上で、その審査結果を自らのホームページに掲載すること等により、投資家の被害を未然に防止することが必要と考えられる。

 また、電子取引業務による売上等の向上を目指す不動産特定共同事業及び電子取引業務を行う部門(以下「営業部門」という。)と、厳正な審査の実施が求められる審査を行う部門(以下 「審査部門」という。)の利害が完全に一致するとはいえないことから、電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等においては、営業部門と審査部門の独立性を確保する必要がある。なお、 第一号事業に係る不動産特定共同事業者又は小規模第一号事業に係る小規模不動産特定共同事業者が自ら電子取引業務を行う場合(以下「自己募集」という。)の審査、及び第三号事業に係る不動産特定共同事業者又は小規模第二号事業に係る小規模不動産特定共同事業者が、第四号事業に係る不動産特定共同事業者として、同一の特例事業者から不動産特定共同事業契約の締結の勧誘の業務委託も受け電子取引業務を行う場合(以下「特例事業に係る自己募集」という。)の審査は、自らが不動産取引に係る業務を行う商品を自ら審査することとなるため、これらの場合においては、営業部門と審査部門の独立性を確保する必要性が高い。 このため、電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、適切な審査を行うための措置として、以下の記載に従って、審査体制を構築するものとする。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

「適切な審査」に関する事項も前回の「電子情報処理組織の管理」と同じく非常に長いので複数回に章を分けて解説していきます。

まず、最初に記載されていることは適切な審査の重要性です。不動産クラウドファンディングに代表される電子取引では、出資に係る契約成立前書面や契約成立時書面について、投資家はもちろん閲覧できるものの、相対で投資商品のスキームやリスクについて説明を受ける訳ではありません。その中で実務上も重要なのが、「財務状況、事業計画の内容及び資金使途その他電子取引業務の対象とすることの適否の判断に資する事項の適切な審査(以下「審査」と いう。)を実施した上で、その審査結果を自らのホームページに掲載すること等により、投資家の被害を未然に防止することが必要と考えられる。」という箇所で、ガイドラインでは、社内の審査結果をホームページに掲載することが必要とされています。許認可の申請の際も、どのような社内審査をファンドの組成時に行うのかについては確認されますので、準備が必要です。

次に記載されている「また、」以下の審査部門の独立性については一般的な記載と言えるでしょう。もともと金融商品取引業者である場合はコンプライアンスの部署が行うことが多く、不動産特定共同事業者のみの許可(登録)を受ける不動産会社の場合、管理系の部署の方が審査を担うことが傾向としては多いです。

適切な審査-人的構成・審査の独立性の確保-

(1)人的構成・審査の独立性の確保

① 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、電子取引業務を適確に遂行することができる人的構成を確保するとともに、審査を行うため、次に掲げるすべての要件を満たす必要がある。

イ.営業部門から独立した審査部門を設置すること。

ロ.審査部門を担当する責任者(以下「審査責任者」という。)及び審査業務を推進する担当者(以下「審査担当者」という。)は、営業を推進する業務(以下「営業業務」 という。)に携わらないこと。

② 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、次に掲げるすべての要件を満たしている場合は、上記①に規定する要件を満たしているものとみなす。

イ.審査担当者は、当該審査案件に係る営業業務に携わらないこと。

ロ.すべての審査案件について、営業部門から独立した管理部門(法令その他の規則の 遵守状況を管理し、その遵守を指導する部門をいう。以下同じ。)の責任者を含む複数の責任者等から構成される会議体により、電子取引業務を行うかの判断を行うこと。

ハ.営業部門から独立した管理部門の責任者が、電子取引業務の判断に係る資料及び情報の重要性について分析及び評価を行い、電子取引業務を行うかの判断について、その過程の適正性を確認すること。なお、管理部門の責任者が審査担当者を兼ねることを妨げないものとする。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

こちらでは人的構成を中心とした審査の独立性について記載されています。

基本的には営業部門から独立していることという大原則に沿って審査する部署及び責任者を決めていく必要があるので留意が必要です。

会議体で審査する体制が作れる場合は、投資委員会やリスク管理・コンプライアンス委員会のような会議体で審査する体制も可能です。

適切な審査-社内規則及び社内マニュアルの整備-

(2)審査に係る社内規則及び社内マニュアルの整備及び遵守の確認

① 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、審査を行うに際しては、審査項目(「(4) 審査項目等」に規定する審査項目をいう。以下同じ。)を社内規則として定めるものとす る。

② 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、審査項目について審査するための手順に関する社内マニュアルを定めるものとする。

③ 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、上記社内規則及び社内マニュアルの遵守状況について、定期的に検査を行い、必要に応じて見直しを行うものとする。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

ファンドの募集にあたっては、事業計画(物件の運用計画といった方が分かりやすいかもしれません)や事業者の財務状況等に関する審査を行い、その結果をホームページ等で公表することが必要なのは既述の通りです。

とはいえ、では実際にどのような審査を行わないといけないかについて、その時その時に適当にやれば良い訳ではなく、ガイドラインの①及び②に記載されている通り、社内規則及び社内マニュアルで審査項目等を事前に定めておく必要があります。許可や登録の申請の際の審査上も非常に重要なので、きちんと準備しましょう。

(3)審査の実施

① 審査責任者及び審査担当者は、電子取引業務を行うに当たっては、審査項目について、適切に審査を行う必要がある。

② 審査責任者及び審査担当者は、審査項目について審査するため、不動産特定共同事業者等に対して確認すべき内容を書面により送付し、その回答内容を書面により受領するよう努め、必要に応じて、当該不動産特定共同事業者等との間で面談を行うよう努める。 なお、自己募集又は特例事業に係る自己募集の場合の審査においては、審査責任者及び審査担当者が適切な情報収集を行い、必要に応じて、営業部門の担当者等に確認すべき内容を確認し、適切な分析及び評価に努めるものとする。

③ 不動産特定共同事業者等の経理の状況については、必要に応じて、経理担当者等にヒアリングを行うとともに、不動産特定共同事業者等の事務所に経理の状況のわかる書類が整備されているかを確認するよう努める。

④ 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、新規に委託を受ける不動産特定共同事業者等の商品を中心に、不動産特定共同事業等を行おうとする対象不動産の実在性について確認をするため、現地に赴く等の対応をすることが望ましい。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

こちらも概ね一般的な解釈と相違ないと思います。

審査担当者の審査に対する質問の出し方や、財務状況や物件の確認に関する審査のあり方が定められています。

②に定められている通り、審査の際には、確認事項を書面にて送付し、書面にて回答を受領することによってきちんと証跡も残し、その他には③・④で経理状況のヒアリングについてや、物件の確認についても記載されています。

適切な審査-審査項目等-

(4)審査項目等

 規則第54条第2号においては、審査を行うべき事項として、不動産特定共同事業者等の①財務状況、②事業計画の内容、③資金使途、④その他電子取引業務の対象とすることの適否の判断に資する事項が挙げられているが、具体的には、次の各審査項目について、以下の11記載に従って審査及びその後の対応を行うものとする。

①財務状況

イ.対応が求められる事項不動産特定共同事業等に係る許可・登録にあたり、財務状況に関する基本的な事項は確認されているものの、各許可・登録主体の監督の程度・内容等については差異が存在することも考えられることから、次の事項について適切な審査を行う必要がある。

a.直近の財務諸表において赤字になっていないこと

 (注)直近の財務諸表において赤字の場合には電子取引業務を行わないことが望ましいが、特別な要因等で一時的に赤字となっている場合も想定されるため、赤字となっており、改善される見込みのない場合には、電子取引業務を行わないものとする。「赤字となっており、改善される見込みのない場合」とは、ヒアリング等により当該赤字の要因分析、過去の財務諸表、電子取引業務を行おうとする事業年度以降の見通し及びその増減要因に係る資料を確認し、明らかに電子取引業務を行おうとする事業年度以降も改善される見込みがないと審査責任者及び審査担当者が判断する場合をいう。

b.財務諸表や公知の情報など比較的入手が容易な資料等から判別して、純資産額が許可・登録基準である資本金又は出資の額の100分の90に相当する額に満たない(法第7条第2号及び法第44条第3号)等、不健全な財務状況となっていないこと

 (注)財務状況が明らかに不健全である場合には、電子取引業務を行わないものとする。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

具体的な審査項目は許認可の申請及び実務上極めて重要かつ内容が長いので区切りながら解説していきます。

①財務状況の「対応が求められる事項」については、「a.直近の財務諸表において赤字になっていないこと」が電子取引業務(クラウドファンディング)を行う上での審査項目に定められていることに常に留意する必要があります。許認可の申請の際にも事前審査で直近決算の損益計算書は特に注意深く確認されます。直近決算が赤字の状態で申請手続きを行う場合は、進行中の会計期間が黒字で確定してから、申請書が初めて受理されるといったこともありますので、許認可の取得スケジュールは注意深く考えておく必要が出てきます。また、実際に許可(登録)手続きが完了してサービスを始めていても、その後赤字に転落した場合は実質的に新規のファンドの募集が出来なくなる可能性も出てきますので、会社全体の損益状況は適切に管理するようにしましょう。

bの方は少し分かりにくいですが、例えば1号事業者の資本金は1億円以上である必要がありますが、その事業者の資本金が1億円の場合、「純資産が資本金又は出資の額の100分の90に相当する額に満たない」という状態は、繰越欠損金などの原因で純資産額が9,000万円未満になっていなければ大丈夫ということです。こちらについてはあまり問題になる会社は少ないですが、金額の大きな減損などで純資産が大きく毀損するようなことがある場合には留意する必要があります。

ロ.対応が期待される事項

 次の事項について適切な審査を行うことが期待される。

a.財務状況及び経営成績の変動理由

b.貸借対照表及び損益計算書又はこれらに代わる書面についての公認会計士又は監査法人の監査の実施状況(不動産特定共同事業者等が小規模不動産特定共同事業者の場合に限る。)

 (注)小規模不動産特定共同事業者が貸借対照表及び損益計算書又はこれらに代わる書面につき公認会計士又は監査法人の監査を受けていない場合、会計参与の設置により計算関係書類の記載の正確さに対する信頼を高めることが推奨される。そこで、この場合、電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、当該小規模不動産特定共同事業者に対して会計参与の設置を推奨し、計算関係書類の記載の正確さに対する信頼を確保することが期待される。

 小規模不動産特定共同事業者に対しては、次のいずれに該当するかを確認し、その結果を顧客等に対し開示することが期待される。

a.公認会計士又は監査法人の監査を受けている

b.会計参与設置会社

c.上記a.及びb.のいずれでもない財務状況の審査結果としての当該不動産特定共同事業者等の財務状況に係るリスクについての評価を顧客等に対し開示することが期待される。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

①財務状況の「対応が期待される事項」については、 損益に関する変動要因や監査の状況の把握が期待される旨が記載されています。

また、監査の状況については、小規模不動産特定共同事業者は監査法人からの監査を受けることが必須条件ではないため、それに代替する確認方法について(注)にて記載されています。

②事業計画の内容

イ.対応が求められる事項

契約成立前書面への記載事項(規則第43条)が契約成立前書面又はこれに代わるファイルに記載又は記録されていることについて確認することは当然のことであるが、事業計画の内容の投資家に対する情報提供の確保のため、特に以下の点を含む契約成立前書面への記載事項については、重点的に確認した上で、例えば、以下A)、B)に示す観点から適切な審査を行った結果、電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等が重要と判断した事項については、その運営するホームページ等を利用して、投資家が閲覧できる状態に置く等、適切な情報提供を行うものとする。

 (注)当該記載事項が記載又は記録されていない場合には、電子取引業務を行わないものとする。

a.不動産特定共同事業契約の法第2条第3項各号に掲げる契約の種別及び当該種別に応じた不動産特定共同事業の仕組み(規則第43条第1項第11号)

b.利害関係人との間の不動産特定共同事業に係る重要な取引の有無並びに当該取引がある場合には当該利害関係人と不動産特定共同事業者等との関係、当該利害関係人の商号若しくは名称又は氏名、住所又は所在地、取引の額及び取引の内容(同項第13号)

c.対象不動産の特定及び対象不動産に係る不動産取引の内容に関する事項(同項第16号)

d.対象不動産に関する事項(同項第17号)

e.対象不動産の価格及び当該価格の算定方法(同項第18号)

f.対象不動産に関するテナントの情報(同項第19号)

g.事業参加者に対する収益又は利益の分配に関する事項(同項第22号)

h.不動産特定共同事業の実施により予想される損失発生要因に関する事項(同項第31号)

i.損失の負担に関する事項(同項第32号)

j.対象不動産の売却等に関する事項(同項第34号)

k.対象不動産の変更に係る手続に関する事項(同項第37号)

A)不適切な商品の販売の防止のため、契約成立前書面の記載内容について、以下の観点から適切な審査を行う必要がある。

 (注)不適切な商品と判断した場合には、電子取引業務を行わないものとする。

a.予想利回りが表示される場合、当該予想利回りについての合理的な算定根拠が記載されているか。

b.例えば、不動産特定共同事業等とは関係なく設定された抵当権付きの土地上に当該抵当権に劣後する借地権に基づいて建設された建物を対象不動産とし、抵当権実行により対象不動産の収去がなされ、当該不動産特定共同事業等の継続が不可能となるリスクがある商品等、総合的に評価して、不合理な商品設計になっていたり、通常取り得ないリスクのある商品となっていたりしないか。

c.不動産特定共同事業等に関して予定される各取引が利害関係人取引に該当するかを確認し、利害関係人取引に該当する場合にはそれらが適切な取引となっているか。また、不動産特定共同事業等に関して予定される各取引が法第26条の2に定める自己取引等に該当するかを確認し、自己取引等に該当する場合にはそれらが規則第48条に定める自己取引等の禁止の適用除外に該当し適切な取引となっているか。

B)不適切な商品の販売の防止のため、事業計画が合理的な根拠に基づいて作成されているかについて、以下の観点から適切な審査を行う必要がある。

 (注)明らかに合理的でないと判断する場合には、電子取引業務を行わないものとする。

a.対象不動産の価格について、鑑定評価額、公示価格、又は路線価等との差異が合理的な範囲内であるか。

b.賃料・費用がどのような根拠で見積もられているか(例えば、想定している稼働率及び賃料の変動、維持管理費(長期の修繕費用を含む。)、公租公課、損害保険料等が合理的に織り込まれているかどうか)、売却価格がどのような根拠で想定されているか等、事業計画の背景に合理的根拠があるか。

c.宅地の造成又は建物の建築に関する工事、建物の修繕又は模様替に関する工事費用について、いかなる工事内容がいかなる単価等に基づいて算定されているか。

ロ.対応が期待される事項事業計画の内容についての審査結果としての当該事業のリスクについての評価を顧客等に対し開示することが期待される。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

②の事業計画についてはどうしても記載するべき若しくは開示するべき情報の幅が広い関係で留意すべき事項が多いので、都度ファンド・案件毎に注意して要記載事項を整理する必要があります。

③資金使途

イ.対応が求められる事項資金使途の妥当性を確保するため、以下の事項について適切な審査を行う必要がある。

 (注)明らかに妥当でないと判断した場合には、電子取引業務を行わないものとする。

a.出資金の使途(対象不動産の取得費用、工事費用等)

b.出資を伴う契約にあっては、対象不動産に係る借入れ及びその予定の有無並びに当該借入れ又はその予定がある場合には借入先の属性、借入残高又は借入金額、返済期限及び返済方法、利率、担保の設定に関する事項並びに借入れの目的及び使途

c.調達しようとする資金の額が事業計画や不動産特定共同事業者等の財務状況に照らして合理的であるか。

d.改修工事を行う事業計画となっているにもかかわらず、改修工事費用が資金使途に入っていない、又は改修工事を行う事業計画とはなっていないにもかかわらず、改修工事費用が資金使途に入っている等の事業計画と資金使途に整合性がない事態を避けるため、資金使途の内訳が事業計画に照らして適当なものであるか。

e.私的流用等の不健全な使途とならないために、調達しようとする資金の額が不動産価値に比して、明らかに過大となっていないか。例えば、対象不動産特定型の不動産特定共同事業等において、借入金及び出資募集額の合計金額が、対象不動産の価値及び改修費用等の合計に比して、明らかに過大なものについては、不適切なものといえる。

ロ.対応が期待される事項資金使途の審査結果としての資金使途に関連するリスクについての評価を顧客等に対し開示することが期待される。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

③の資金使途についても②の事業計画と同様に記載するべき若しくは開示するべき情報の幅が広い関係で留意すべき事項が多いので、都度ファンド・案件毎に注意して要記載事項を整理する必要があります。

④その他電子取引業務の対象とすることの適否の判断に資する事項

イ.対応が求められる事項

次の事項について適切な審査を行う必要がある。

a.不動産特定共同事業者等と電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等の利害関係の状況(出資関係、役員派遣、取引等の関係の状況)

 (注)自己募集の場合は不要とする。

b.過去に不動産特定共同事業等を行っている場合において、不動産特定共同事業者等の責に帰すべき事由等により元本の償還遅延等の投資家被害が生じていないか。

 (注)投資家被害が生じている場合には、電子取引業務を行わないものとする。不動産特定共同事業者等と電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等の利害関係の状況については、確認した結果のうち利害関係の有無について顧客等に対して自らのホームページに掲載する等の方法によりわかりやすく開示するものとする。

 (注)自己募集又は特例事業に係る自己募集の場合は、その旨を開示するものとする。

ロ.対応が期待される事項次の事項について適切な審査を行うことが期待される。

a.過去1年以内に不動産特定共同事業等を行っていた場合におけるその後の状況(募集額及びその使途の状況、事業計画との整合性)

b.所管省庁等からの行政処分の有無(注)行政処分がなされている場合には、当該行政処分の時期、内容、改善状況等を確認し、投資家被害の有無・程度や故意の有無等に照らし悪質性が高いと認められる場合には電子取引業務を行わないなど、適切な対応を行うことが期待される。

 過去1年以内に不動産特定共同事業等を行っていた場合におけるその後の状況や過去の行政処分の有無・内容、審査の結果明らかとなった過去の投資家被害について、顧客等に対し開示することが期待される。また、不動産特定共同事業者等に対する過去の投資家からの評価等もふまえ、当該不動産特定共同事業者等の特長や投資の際の留意点として、重要と判断する事項については、顧客等に開示することが期待される。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

④のその他の審査事項としては、イ-b.の「過去の投資家被害」が特に全ての事業者に係る大きな留意点で、ファンドの償還期限を過ぎても、物件が売却できなかったりして元本が償還できなくなった場合、次回以降の電子取引による募集が出来なくなるため、元本の償還は継続的に行えるように案件を組成する際には物件の選定やスキームの組み方を良く考えて行うようにしましょう。

適切な審査-審査結果等の公表

5)審査結果等の公表

 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、審査の概要及び当該実施結果の概要について、契約成立前書面の説明事項として申込者に対し説明するものとし(規則第43条第1項第43号)、また、投資家の判断に重要な影響を与える事項として、自らのホームページ等において、投資家が閲覧することができる状態に置く必要がある(規則第55条)。

 これらに加えて、電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、不動産特定共同事業者等について、審査の内容(各審査項目の確認方法及びその確認結果)、当該審査の過程において把握した留意点及び当該審査の結果の判断に至る理由を、その運営するホームページに掲載する等の方法により、顧客等に対して公表することが期待される。更に、自己募集又は特例事業に係る自己募集の場合は、その旨を開示するものとする。

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

審査結果等の公表はシステムの要件としても重要で、契約成立前書面の記載事項として審査項目とそれに対する審査結果のページを用意し、ホームぺージ等で閲覧できる状態におくことが求められています。具体的な対応としては、クラウドファンディングのサービスページにおいて、各ファンドの募集時に投資家登録を済ませた利用者が閲覧できるようにしている事が多いです。

適切な審査-社内記録の作成、保存

(6)社内記録の作成、保存

 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、電子取引業務を行った場合には、以下に掲げる記録を作成し、その作成の日から10年間保存するものとする。

①審査において収集した資料及び情報(電子取引業務を行う判断に影響を及ぼすと認められるものに限る。)並びに当該資料及び情報に対する分析及び評価に関する記録

②電子取引業務を行う判断の基となった資料及び情報並びに当該判断の形成過程に係る記録

不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)

最期の審査結果に関する記録は10年間の保管が義務付けられていますので、文書管理規程などを整備し、誤って破棄などすることのないようにしましょう。

今回は、案件の組成時に行う必要のある審査に関する条項を解説しました。重要性が高く、また具体的な業務に大きくかかわってくる項目なのもあり、(1)~(6)まで、記載事項も多いですが、一つ一つ丁寧に内容を確認し、許可申請書類の作成や、システムの開発の際には対応漏れの無いようにしましょう。次回はクーリングオフ以降の内容を取り扱っていきます。

第4回の解説はこちら(次回)

第2回の解説はこちら(前回)