国税の徴収を確実にするための保全制度のうち、既に申告等により税額が確定しつつある、あるいは調査等で多額の税額が見込まれる段階で行われるのが「保全差押え」です。
本記事では、国税徴収法(以下「徴収法」)第159条に基づき、その要件や「繰上保全差押え」との違いについて詳しく解説します。
目次
1. 保全差押えとは
保全差押えとは、納税義務が確定した国税(または確定すると見込まれる国税)について、通常の滞納処分(差押え)を待っていては徴収が困難になると認められる場合に、その納付期限前であっても財産を差し押さえることができる制度です。
2. 保全差押えの要件(徴収法第百五十九条第一項)
税務署長は、国税の徴収を確保するため、以下の要件をすべて満たす場合に、納税者の財産を差し押さえることができます。
対象となる国税
- 納付すべき額が確定した国税であって、その納付期限前であるもの。
- 申告、更正または決定により納付すべき額が確定すると見込まれる国税(調査開始後など)。
該当する事由
- 納税者が徴収法第十五条第一項各号(繰上請求の事由:倒産、解散、強制執行、不正行為による逃亡の恐れ等)のいずれかに該当し、かつ、徴収を確保するために必要があると認められるとき。
3. 手続きと執行(徴収法第百五十九条第一項・第二項)
保全差押えの実行には、以下の厳格な手続きが定められています。
- 国税局長の承認: 税務署長は、保全差押えをしようとするときは、あらかじめ国税局長の承認を受けなければなりません。
- 保全差押金額の決定: あらかじめ「保全差押金額」を決定し、その範囲内で執行します。
- 決定の通知: 決定後、直ちに納税者へ書面で通知します。
- 担保による回避: 納税者が保全差押金額に相当する担保を提供したときは、差押えを行うことはできません。
- 換価の制限: 差し押さえた財産は、その国税の納付期限(または確定後)が経過するまでは換価できません。
4. 差押え・担保の解除(徴収法第百五十九条第五項)
保全差押えは、以下の事由に該当する場合、解除しなければなりません。
解除の義務
- 納税者が担保を提供して解除を請求したとき。
- 保全差押金額の通知をした日から一年を経過した日までに、その国税の額の確定がないとき。
【重要:期間の比較に注意】 よく似た制度である「繰上保全差押え(通則法第38条)」では通知から十月で解除義務が生じますが、本記事の「保全差押え(徴収法第159条)」は「一年」となっております。混同しやすい数字ですので、注意が必要です。
5. 国の無過失賠償責任(徴収法第百五十九条第八項)
保全差押えの結果、確定した税額が保全差押金額に満たなかった場合、その差押えによって納税者が被った損害に対し、国は無過失であっても賠償する責任を負います。
まとめ:繰上保全差押えとの違い
最後に、よく似た2つの制度の違いを表にまとめました。
| 項目 | 繰上保全差押え | 保全差押え |
| 根拠法令 | 国税通則法 第38条 | 国税徴収法 第159条 |
| 主なタイミング | 法定申告期限前(全くの未確定) | 調査中・確定後〜納期限前 |
| 解除までの期間 | 繰上保全差押金額を納税義務があると認められる者に書面で通知した日から一年を経過した日までに、その差押えに係る国税につき納付すべき額の確定がないとき。 | 保全差押金額を納税義務があると認められる者に書面で通知した日から一年を経過した日までに、その差押えに係る国税につき納付すべき額の確定がないとき。 |
| 局長の承認 | 必要 | 必要 |


