収益認識会計基準とは①

今回は新たに設定された会計基準である一方で非常に重要性の高い収益認識会計基準について解説していきます。収益認識を包括的に詳細に定めた初めての基準で、2021年4月1日以後開始する事業年度の機首から適用開始されています当面は上場会社など、主として大企業が適用すべき基準です。「収益認識に関する会計基準」で「収益認識会計基準」と記載されることが多いです。

収益認識の包括的な定め

まずは、従来の収益認識について大まかにですが確認し、さらに「収益認識会計基準」の成立についてその経緯等を学んでいきましょう。

従来の収益認識

我が国の収益認識については、従来は、包括的な会計基準が存在せず企業会計原則において、「実現主義」が原則とされているという程度でした。

この「実現主義」とは、収益の認識を「収益の実現」の時点でおこなう考え方です。

収益の実現」とは、次の2つの要件を満たした時点とされています。

  • 財貨又は用役を相手方に引渡すこと。
  • 対価として貨幣性資産を受領すること。

この実現主義を原則として企業会計原則で定められていましたが、その他にあった収益認識に係る新会計基準はごく限られたものでした。近年では企業会計原則ではカバーしきれない分野について、様々な新会計基準が設定はされていましたが、その多くは資産の評価、負債の評価、費用の認識などに係るもので、収益の認識に係るものはごく限られたものとなっていました。

具体的な新会計基準は以下のようなものがあります。

  • 資産の評価:リース取引、金融商品、棚卸資産の評価、など
  • 負債の評価:退職給付、資産除去債務、など
  • 費用の認識:ストック・オプション、研究開発費、固定資産の減損、など
  • 収益認識:工事契約(収益認識の会計基準の新設により現在は廃止されています)
  • 表示:純資産の部の表示、包括利益、など
  • その他:会計上の変更等、企業結合、事業分離、など

コンバージェンスの必要性

さらに、IFRSなどの国際的な会計基準において、収益認識に関する包括的な会計基準が設定されており、我が国においても、国際的な会計基準とのコンバージェンスの一環として、「収益認識に関する会計基準」が2018年3月に公表されたという訳です。そこから約3年の猶予期間がおかれ、2021年から正式に適用開始となっております。

収益認識会計基準はあらゆる営業収益をカバーすることを目指した会計基準

我が国の「収益認識会計基準」は、企業会計原則等に替わって、新たに収益認識を包括的に定める基準となっております。一言でいうと、実現主義の原則とほぼ同じような内容のものを、この会計基準ひとつで、あらゆる営業収益をカバーできるように、事細かに具体的にルールとして定めたものであるということです。

営業外収益は対象外であることを一緒に頭に入れておきましょう。

収益認識会計基準は理論よりも実務を重視

「収益認識会計基準」は、収益認識を包括的に定める基準ですが、同時に、あらゆる業種・企業の「営業取引」に対応できるように、詳細なルールを定めた実務密着型の会計基準となっています。そのため、あまり理論性は見られません。理論性よりも企業間比較を重視したルールとなっています。

企業ごとに解釈が異ならないように、計算に関する事細かなルールが定められています。実はそれには理由があり、IFRSでも理論性が全面に出てくることはほとんどなく、そのIFRSを手本として「収益認識会計基準」が定められたからです。この会計基準の「結論の背景」に記載されていることも、採用された「理由」や、考え方の「論拠」などはほとんどなく、会計基準を理解するための補足説明が多いです。

用語の定義

今度はそんな収益認識会計基準に用いられている用語について解説していきます。

まず「顧客」、「履行義務」、「取引価格」、「独立販売価格」についてです。

6.「顧客」とは、対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者をいう。

7.「履行義務」とは、顧客との契約において、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束をいう。

  1. 別個の財又はサービス(あるいは別途の財又はサービスの束)
  2. 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)

「取引価格」とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く。)をいう。

ここで重要なのが、権利を得ると見込む対価の額は、回収できる額であり、純額で考えます。多くの場合は販売価格ですが、将来的に値引きが見込まれる場合やリベートが見込まれる場合は、純額で売上計上されるということになります。

また、第三者のために回収する額というのは、一番わかりやすいのが消費税で、これは国などに将来的に納めるために回収しているために消費税等として、収益認識はされないということになります。

9.「独立販売価格」とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいう。

なので単品で販売した時の価格を独立販売価格として定義しております。

収益認識の基本となる原則

次に収益認識の基本となる原則をみていきましょう。収益認識の基本となる原則は、以下のように定められております。

本会計基準の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で、描写するように、収益を認識することである。

内容としてはピンときにくいところはありますが、財又はサービスが顧客に移転したことで収益を認識するということです。逆に言えば財又はサービスが顧客に移転する前は収益を認識してはならないこととなります。

5つのステップ

実際に先程の基本となる原則に従って収益を認識するために次の5つのステップを適用します。

  1. 顧客との契約を識別する。
  2. 契約における履行義務を識別する。
  3. 取引価格を算定する。
  4. 契約における履行義務に取引価格を配分する。
  5. 履行義務を充足した時又は充足するにつれて収益を認識する。

1と2は何に対して収益を認識するかの収益認識の単位を表しています。契約ごとに収益認識を検討し、それぞれの履行義務を識別してはっきりさせるということです。

3と4は収益の額を決めるためのステップです。5番目のステップは収益の計上時期となります。

如何でしたでしょうか。次回以降も収益認識会計基準について解説していきますのでこの機会に内容を理解していきましょう。