不動産クラウドファンディングの手引書として、第1回では国土交通省が2019年4月に公表した「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン」の「目的」から「商号」の章を、第2回では「電子情報処理組織の管理」、第3回では「適切な審査」を解説しました。 そして第4回では不動産特定共同事業法では避けて通れない「クーリング・オフ」と、 サービス立ち上げに際して見落としがちな「定期的な情報提供」を解説しました。
第5回となる今回は、案件(ファンド)を実際に募集する際の最大の関門と言っても良い「重要事項の閲覧」を解説していきます。
法的な説明義務になりますので、必ず募集前に入念な確認を行い、抜け漏れや記載間違いが無いようにしましょう。ガイドラインにも細かく補足説明がされているので、この機会に解説とともにその内容をみていきましょう。
重要事項の閲覧
10.重要事項の閲覧(規則第55条)
電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、投資家の判断に重要な影響を与える事項について、自らのホームページ等において、電子取引業務を行う期間中及び電子取引業務に係る不動産特定共同事業等の期間中、投資家が閲覧することができる状態に置く必要がある。
(1)電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、特に当該不動産特定共同事業等に係る以下の事項について、自らのホームページ等を利用して情報提供し、投資家が閲覧できる状態 に置くものとする。
① 不動産特定共同事業者等の商号等(規則第43条第1項第1号及び同項第2号)
自己募集及び特例事業に係る自己募集の場合を除いて、電子取引業務の対象となる商品に関し不動産取引を行う不動産特定共同事業者等(特例事業者は含まない。)の商号又は名称、住所及び代表者の氏名並びに許可番号又は登録番号等を表示する。
② 貸借対照表及び損益計算書の要旨(同項第6号)
不動産特定共同事業者等(第一号事業又は小規模第一号事業を行う者に限る。)の事業開始日を含む事業年度の直前三年(小規模第一号事業を行う者においては、直前二年)(もしあれば)の各事業年度の貸借対照表及び損益計算書の要旨を表示する。
③ 委託特例事業者の商号又は名称、住所及び代表者の氏名(同項第8号)
委託特例事業者の商号又は名称、住所及び代表者の氏名を表示する。
④ 対象不動産の特定及び対象不動産に係る不動産取引の内容に関する事項(同項第16号)
対象不動産の特定及び当該対象不動産に係る不動産取引の内容に関する次の事項を表示する。
イ. 対象不動産の所在、地番、用途、土地面積、延べ床面積その他の対象不動産を特定 するために必要な事項
(注)「その他の対象不動産を特定するために必要な事項」については、自己の固有財産、利害関係人が有する資産を対象不動産とする場合にはその旨を表示する必要がある(同条第2項第1号)。
ロ. 対象不動産の変更の予定がある場合にあっては、その旨
ハ. 対象不動産に係る不動産取引の取引態様の別
ニ. 出資を伴う契約にあっては、対象不動産に係る借入れ及びその予定の有無並びに当該借入れ又はその予定がある場合には借入先の属性、借入残高又は借入金額、返済期限及び返済方法、利率、担保の設定に関する事項並びに借入れの目的及び使途
(注)担保の設定に関する事項並びに借入れの目的及び使途に関して、対象不動産を当該不動産特定共同事業契約に基づく不動産特定共同事業の目的以外のために担保に供し、又は出資の目的とすることを禁ずる旨を明示すること。
ホ. 不動産取引の開始予定日(追加募集に係る不動産特定共同事業契約の締結をしようとする場合にあっては、不動産取引の開始日)
ヘ. 不動産取引の終了予定日
⑤ 対象不動産の価格及び算定方法(同項第18号)
対象不動産の価格及び当該価格の算定方法(当該算定について算式がある場合においては当該算式を含む。)を表示する。なお、不動産鑑定士による鑑定評価の有無並びに当該鑑定評価を受けた場合には、当該鑑定評価の結果及び方法の概要(当該鑑定評価の年 月日を含む。)並びに鑑定評価を行った者の氏名を表示する(同条第2項第2号)。
⑥ 出資に関する事項(同条第1項第20号)
出資を伴う契約にあっては次の事項を表示する。
イ. 収益又は利益の分配及び出資の返還を受ける権利の名称がある場合にはその名称
ロ. 出資予定総額又は出資総額の限度額
ハ. 申込の期間及び方法
ニ. 払込又は引渡しの期日及び方法
⑦ 財産の管理に関する事項(同項第23号)
不動産特定共同事業契約に係る財産の管理に関して、少なくとも以下の事項を表示す る(同条第2項第3号)。
イ. 法第27条に規定する財産の分別管理を行っている旨
ロ. 当該分別管理が信託法(平成18年法律第108号)第34条に基づく分別管理と異なるときは、その旨
ハ. 修繕費、損害保険料その他対象不動産を管理するために必要な負担に関する事項
⑧ 契約の解除に関する事項(規則第43条第1項第26号)
契約の解除に関する事項には、次の事項を含むものとする。 イ. 契約の解除又は組合からの脱退の可否及びその条件
ロ. 契約の解除又は組合からの脱退の方法
ハ. 契約の解除又は組合からの脱退に係る手数料
ニ. 契約の解除又は組合からの脱退の申込期間
ホ. 契約の解除又は組合からの脱退が多発したときは、不動産取引を行うことができなくなるおそれがある旨
ヘ. 事業参加者は、その締結した不動産特定共同事業契約について法第25条第1項の書面を受領した日又は電磁的方法により提供された日(この場合、規則第43条第 1項第26号ヘ(1)又は(2)に規定する日)から起算して8日を経過するまでの間、書面により当該不動産特定共同事業契約の解除を行うことができる旨
ト. 法第26条第2項及び第3項の規定に関する事項
不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)
重要事項としてホームページ(サービスページ)に開示しなければならない事項は多岐に渡るので、一旦途中で切らせて頂きました。
この中で比較的柔軟に対応でき、確認の問い合わせが多いものの一つは「②貸借対照表及び損益計算書の要旨」です。あくまでの要旨で良いので事細かに勘定科目を分けてまで開示する必要は無いです。重要事項の説明書類の末にキャプチャを入れる形で対応される会社が多いです。また、上場していて財務諸表を開示している場合などは、URLでリンク先を明示しておけば十分となります。
そのほかには 「⑤対象不動産の価格及び算定方法」は重要度が高いです。 管轄している都道府県庁(国土交通省)にもよりますが不動産鑑定評価等の第三者評価の取得を原則として求められることもありますので、可能な限り取るようにしましょう。
⑨ 不動産特定共同事業者等(特例事業者を除く。)の報酬に関する事項(規則第43条第1 項第28号)
不動産特定共同事業者等(特例事業者を除く。)の報酬に関する次の事項を表示する。
イ. 報酬の計算方法
ロ. 支払額(未定の場合にあってはその旨)
ハ. 支払方法
ニ. 支払時期
⑩ 委託特例事業者の報酬に関する事項(同項第29号) 委託特例事業者の報酬に関する次の事項を表示する。
イ. 報酬の計算方法
ロ. 支払額(未定の場合にあってはその旨)
ハ. 支払方法
ニ. 支払時期
⑪ 予想される損失発生要因に関する事項(同項第31号)
不動産特定共同事業等の実施により予想される損失発生要因に関して、少なくとも次の事項を表示する(同条第2項第4号)。
イ. 不動産特定共同事業者等の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、その旨
ロ. 契約上の権利を行使することができる期間の制限又は契約の解除若しくは契約上の権利及び義務の譲渡をすることができる期間の制限があるときは、その旨及び当該内容
ハ. 金利、通貨の価格、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第14項に規定する金融商品市場における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として元 本欠損が生ずるおそれがあるときは、その旨及び当該指標
⑫ 損失の負担に関する事項(規則第43条第1項第32号)
不動産特定共同事業契約に係る不動産取引から損失が生じた場合における当該損失 の負担に関して、少なくとも次の事項を表示する(同条第2項第5号)。
イ. 出資を伴う契約にあっては元本の返還について保証されたものではない旨
ロ. 任意組合契約等であって事業参加者が無限責任を負うものにあっては、事業参加者が無限責任を負う旨
⑬ 権利及び義務の譲渡に関する事項(同条第1項第35号)
事業参加者の契約上の権利及び義務の譲渡の可否、条件、方法、手数料、支払方法及び支払時期を表示する。
⑭ 対象不動産の変更に係る手続に関する事項(同項第37号(対象不動産の追加取得の方針に係る部分に限る。))
対象不動産の変更の予定がある場合にあっては、対象不動産の変更に関する次の事項を表示する。
イ. 不動産特定共同事業契約の締結をするときに対象不動産の追加取得の方針に関する次に掲げる事項を記載する欄に関する定め
a. 追加取得する不動産の所在地域、延べ床面積、構造方法、用途及び建築後の経過年数並びに敷地面積その他の追加取得する不動産の選定の基準に関する事項
b. 地域別、用途別その他の追加取得する対象不動産に係る分類別の比率の予定が 明らかである場合にあっては、当該比率に関する事項
c. 追加取得に係る借入れに関する制限に関する事項
d. その他事業参加者の判断に重大な影響を与える事項
ロ. 対象不動産の追加取得の手続きに関する定め
ハ. 対象不動産の追加取得の方針及び手続の変更に関する明確かつ公正な定め
ニ. 対象不動産の追加取得の方針及び手続の変更に反対する旨を通知した事業参加者の契約上の権利及び義務を取得し、又は第三者に取得させることその他の事業参加者の保護のために必要かつ適切な措置に関する定め
ホ. 対象不動産の追加取得の価格が当該対象不動産の鑑定評価額又は近傍同種の不動産の取引価格等に照らし合理的なものであることを担保するために必要かつ適切な措置に関する定め
⑮ 電子取引業務における審査の概要及び当該実施結果の概要(同項第43号)
規則第54条第2号に規定する措置の概要及び当該不動産特定共同事業契約に関する当該措置の実施結果の概要を表示する。
⑯ 電子取引業務として行う旨
⑰ 電子取引業務に関する照会に係る連絡方法
顧客等が電子取引業務に関して電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等に照会する場合の連絡方法を表示する。
⑱ 不動産特定共同事業者等と電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等との利害関係
不動産特定共同事業者等と電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等との間で利害関係が認められる場合にはその内容(但し、自己募集又は特例事業に係る自己募集の場合は、その旨)
⑲ 事業参加者の出資の価額の上限(小規模不動産特定共同事業を対象とする場合) 電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、電子取引業務の対象とする事業が小規模不動産特定共同事業の場合には、当該電子取引業務を行うに当たり、事業参加者が 行うことができる出資の価額は、不動産特定共同事業法施行令(平成6年政令第413 号)第2条第1項第1号、又は同条第2項第1号に掲げる要件を満たすものに限られることを表示する。
不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)
続きを見ていきましょう。
「⑨不動産特定共同事業者等(特例事業者を除く。)の報酬に関する事項」は、主に案件の組成時や物件管理、物件売却時に不動産特定共同事業者等がどの程度の金額を報酬として受け取るのかを記載します。月単位の固定額で定められることもありますし、売却価格の○%といった定め方をする時もあります。
「⑪予想される損失発生要因に関する事項」や「⑫損失の負担に関する事項」は、ガイドラインにて記載するべきものとして定められているものは抜け・漏れの無いようにしましょう。
そのほかは内容としては概ねどの会社も同様となりますので、案件ごとというよりも先にテンプレートを作成して許可・登録申請時に規制当局の確認も得ておくことが重要です。
(2)電子取引業務を行う不動産特定共同事業者等は、(1)に示す事項を、ホームページ等の閲覧者にとって見やすい箇所に明瞭かつ正確に表示されるように行うものとする。また、上記 (1)⑪ないし⑬の事項の文字又は数字は、当該事項以外の事項の文字又は数字のうち最も大きなものと著しく異ならない大きさで表示するものとする。その他(1)に示す事項の表示においては、特に以下の点に留意するものとする。
① 情報提供に際しては、投資家保護の観点から、適切かつ分かりやすい表示がなされるよ うにするものとし、当該事項をホームページで表示する趣旨や当該事項の記載方法に関する規定の趣旨等を踏まえ、投資家の判断に重要な影響を与える事項を先に表示するなど、投資家が理解をする意欲を失わないよう努めるものとする。
② 情報提供をホームページ等で行う際には、電子取引業務を行う期間及び電子取引業務に係る不動産特定共同事業等の期間中、投資家が容易に当該事項を記載した箇所にアクセスできるような表示を行うものとする。
不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドラインより(https://www.mlit.go.jp/common/001283702.pdf)
最後に重要事項説明の書類についてですが、(2)で、投資家が書類を見やすい場所(案件の募集ページが一般的)に表示し、また、リスクに関する事項は他の文字と比べて小さくしたりすることの無いように作成される必要があります。
また、電子取引業務等の期間、即ち運用期間中も投資家がいつでも書類を見れるように、マイページに「交付書類一覧」などのページを用意して、投資家がいつでも過去交付書類として確認出来る状態にする必要があることに留意しましょう。
今回は法的に非常に重要性の高い、重要事項説明に関する解説をしました。
次回はいよいよ最終回で、預託に関して、ガイドラインは勿論のこと、そもそもの預託や、預託の無い形での募集から入金までのオペレーションの補足説明も込みで解説していきたいと思います。